札幌高等裁判所 平成8年(ネ)173号 判決 1997年4月24日
控訴人(被告) 蔵本久美子
右訴訟代理人弁護士 関口正雄
被控訴人(原告) 三菱オートクレジット・リース株式会社
右代表者代表取締役 内藤晃
右訴訟代理人弁護士 磯部憲次
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
主文と同旨
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目表三行目の「二六日、」の次に「被控訴人から連帯保証契約の意思確認の電話を受けた際、間違いない旨答えたことによって、」を、四行目の末尾に続けて「右申込みに対し、被控訴人は、即時に承諾し、同日、口頭により連帯保証契約(以下「本件連帯保証契約」という。)が成立した。そうでないとしても、被控訴人は、控訴人からの右申込みに対し、同月二八日、これを承諾し、本件連帯保証契約が成立した。」をそれぞれ加える。
2 同裏五行目の全部を「(4) 被控訴人は、平成六年四月二六日又は同月二八日に、右申込みを承諾した。」に改める。
3 同四枚目裏八行目の末尾の次に「被控訴人主張の未払金を支払ったのは控訴人の弟である。」を加え、九行目の「3(三)」を「(二)(4)」に改める。
第三 証拠関係<省略>
第四 当裁判所の判断
一 請求原因1、2について
1 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
2 請求原因2の事実は、証拠(吉田作成部分について、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲一)によって認めることができる。
二 請求原因3(一)、(二)について
1 証拠(甲一の存在、甲四ないし七、九、一〇、乙一、原審証人国吉暁、同工藤熙、当審証人小笠政人、同花見公之、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 控訴人は、小樽市内でスナックを経営していたが、従業員である田辺未緒子から、友人の吉田が通勤用の中古車を六、七〇万円で購入しようとしているが、保証人が見つからないで困っているので、吉田の保証人になってもらえないかと依頼され、これを承諾した。
(二) 訴外会社の販売担当社員である小笠政人(以下「小笠」という。)は、平成六年四月一九日ころ吉田から、本件自動車を代金三七五万八〇〇〇円(付属品、付帯費用及び消費税を含む。)でクレジットを利用して購入したいとの申込みを受け、吉田の勤務先、年収、自己資金等を聴取して、同月二三日ころ、被控訴人札幌支店に電話で吉田の年収等を伝えた上、所要資金三五〇万円で被控訴人のオートクレジットを利用できるか否かの審査を依頼した。被控訴人の担当者は、小笠から電話で聴取した事項を審査用のメモ用紙(甲九、一〇)に記載して検討し、吉田の場合は連帯保証人を付し、かつ、割賦元金を三〇〇万円以内とすれば、被控訴人のオートクレジットを利用することができると答えた。
(三) 被控訴人の札幌支店の担当者国吉暁(以下「国吉」という。)は、同月二六日午後九時ころ、控訴人の自宅に電話をして、前記のメモ(甲九、一〇)に基づき、吉田が訴外会社から本件自動車を購入し、控訴人を連帯保証人として、被控訴人にクレジットを申し込んだこと、クレジットの元金は二九八万円、支払方法はボーナス併用の六〇回払で、初回は四万五〇〇六円、二回目以降は四万六〇〇〇円であることなどを告げ(なお、右分割金額は、手数料額を除外しているため、後に作成された契約書(甲一)の分割金額と異なっている。)、この内容で実行して間違いないか尋ねた。控訴人は、未だ契約書を見ておらず、いずれ契約書に署名押印する機会があり、また、契約書に署名押印をして初めて保証人としての責任が生じるものと考えていたため、間違いない旨の回答をしたが、その際、国吉は、控訴人に対し、右の条件で吉田に貸付けをするとか、控訴人と連帯保証契約を締結するなどという話は一切しなかった。
(四) 国吉は、同月二八日、吉田にも電話により契約意思の確認をした上、訴外会社に対し、吉田との間でクレジット契約書を作成してもよいと伝えた。
(五) この間、小笠は、吉田に対し、「三菱オートクレジット約定書」と題する契約書用紙(甲一)を交付して、購入者欄に署名押印させたが、その後、割賦元金を三〇〇万円以内として連帯保証人を要することとなった旨説明した上、右契約書用紙に所要資金二九八万円等と記入し、その連帯保証人欄に保証人の署名押印をもらってくるように指示したところ、吉田は、連帯保証人欄に控訴人名義の署名押印(ただし、控訴人の旧姓の「花見」姓による署名押印)のある右契約書を持参し、同月二八日、小笠と吉田は右契約書を完成させた。しかし、右契約書の連帯保証人欄の控訴人名義の署名は控訴人の自筆ではなく、名下の印影は控訴人の印章によるものではなく、控訴人は、吉田を含め第三者が右署名押印することを承諾したことはなかった。
(六) 控訴人は、三〇〇万円を超えるような債務を保証する資力はなく、その後、吉田や被控訴人から連帯保証契約締結に関して何ら連絡を受けず、契約書を見せられたり、その控えを送られたこともなかった。
(七) 被控訴人は、同年五月末日、二九八万円を訴外会社に立替払いした(請求原因4)。
(八) 吉田は、本件自動車を購入するための不足資金の一部八二万円を小笠の紹介で別のクレジット会社を利用して支払い、残金三六万円余りを納車時に支払うことを約したが、納車後右残金を支払わず、平成七年一月には割賦金の二か月分を遅滞し、その後、行方をくらました。
(九) 被控訴人の債権管理を担当している工藤熙(以下「工藤」という。)は、同月中旬、控訴人に対し、吉田が割賦金を二か月分遅滞して連絡が取れなくなったので払って欲しいと電話したところ、控訴人は、契約書に署名押印していないのに保証人にされていることを知り、吉田は控訴人の飲食店に来ているので払うように伝えておくと答えた。
(一〇) 工藤は、吉田からその後も支払がなかったので、同年二月、控訴人に対し、このままでは契約を解約し一括支払を求めることになる旨伝えたところ、控訴人は、吉田を捜し出して事情を聞くために猶予期間が欲しいので、割賦金の一か月分を立替払するから、猶予して欲しいと申し出た。
(一一) 控訴人から相談を受けた控訴人の弟は、同月二三日ころ、被控訴人の札幌支店を訪れ、工藤と交渉したが、割賦金を一回分支払わなければ一括弁済を請求することになると言われ、四万八〇七二円を支払った。
2 右認定事実によれば、控訴人が国吉から電話確認を受けてこれを了解したことが認められるが、右の電話確認がされたのは、被控訴人と吉田との間で立替払契約が締結される以前のことであること、当時、控訴人は、契約書を見ておらず、いずれ契約書に署名押印する機会があるものと考え、署名押印して初めて保証人として責任が生じるものと認識していたこと及び控訴人があらかじめ保証することを了解していた金額は六、七〇万円であり、それ以上の金額は保証する資力がなかったこと、本件が割賦販売法二条三項二号所定の個品割賦購入あっせんにかかる連帯保証契約で、書面が重視されるべき取引であって(同法三〇条の二第五項、三〇条の六、四条の二、四条の三、五条等参照)、契約書の作成をもって確定的に契約締結の合意がされたものと考えるのが自然であることなどの事情を考慮すると、国吉は、前記電話確認の際、控訴人の保証意思を打診したにすぎないものであり、また、これに対して、未だクレジット契約書が作成されていない段階で、また、契約書に署名押印したことのない控訴人が肯定的な応答をしたからといって、控訴人の方から積極的に本件連帯保証契約締結の申込みの意思表示をしたとみることはできない。なお、仮に控訴人が右の申込みをしたものと認める余地があるとしても、前記電話確認の当日においてはもとより、その後(被控訴人は平成六年四月二六日又は同月二八日と主張する。)においても、被控訴人から控訴人に対し、右申込みを承諾する旨の意思表示がされてこれが控訴人に到達したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、請求原因3(一)による連帯保証契約の成立を認めることはできない。
3 クレジット契約書(甲一)の連帯保証人欄の控訴人名義の署名押印が、控訴人の意思に基づくものと認められれば、控訴人は吉田に対して連帯保証契約締結の代理権を授与したとみる余地もあるが、前記1の認定事実によれば、右署名押印は、吉田によって偽造された疑いが強く(控訴人の供述によれば、吉田が控訴人に無断で作成した控訴人名義の印鑑を用いて前記契約書に押印したことが窺われる。)、控訴人の意思に基づくものとは到底いえず、他に控訴人の意思に基づいて右署名押印がされたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、請求原因3(二)(2)の事実を認めることはできない。
4 国吉の控訴人に対する電話確認の前に、被控訴人と控訴人ないしその代理人(無権代理人を含む。)との間で何らかの法律行為がなされたとの事実は認められないから、右電話確認の際に、控訴人が追認したということは考えられない。
5 前記1の認定事実によれば、控訴人は、平成七年二月二三日、被控訴人に対し、弟を介して四万八〇七二円を支払ったが、右の支払は、工藤から一括払いを請求するといわれ、行方不明の吉田を捜すまでの猶予期間を得るためにしたものであって、自己の契約責任を認める趣旨でしたものということはできないので、右の事実があるからといって、控訴人が連帯保証契約を追認したものということはできない。
三 以上のとおり、請求原因3(一)、(二)の各事実が認められないので、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の請求は理由がない。
第五 よって、右と結論を異にする原判決は相当でないから、これを取り消した上、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 小野博道 土屋靖之)